JOURNAL

2022.03.15

FLAT

私が子どもの頃 母がよく使っていた黒いスエードのカバン

それは細くて長い持ち手にマチもポケットも無いようなとても簡素なつくりのカバンだった

特にこれといったデザイン性があるわけではないのに

なぜかそれは私の記憶にずっと残っていて

いつからかそんなカバンが欲しいと思うように

ある時共通の友人を介してANDADURAの山本さんと出会い

私の記憶の中から山本さんによって切り出され 出来上がったのが

”FLAT”と名付けられたとってもシンプルなつくりのカバンです

  

以下ANDADURA 山本さんより 

         

jijiさんと一緒にカバンを作りました

去年の秋ごろ jijiさんの展示会で jijiの小山さんにはじめてお会いしました

その時に一緒にカバンを作りましょうと話をして 帰りの車の中 頭の中で出来たのが このカバンです

すぐにイメージが湧いてきたのは 小山さんの中の

明確なイメージを伝えてもらったからで

ありありとしたかたちを想像することが出来ました

冬にアトリエにお邪魔し jijiさんの作る空間を眺め

長い時間お話をすることで「氷にならないぎりぎりの水の温度感」

というイメージが浮かびました

FLATはとってもシンプルな小さなカバンですが

「氷にならないぎりぎりの水の温度感」というイメージが

普段やらないチャレンジを促してくれました

構造のセンターを中心とするのではなく 見えのセンターを中心とする

数ミリの誤差が出ますが 柔らかな素材がその誤差を吸収し受け止めてくれる

使う糸も いつもとは違う糸に変え 番手も細いものにして 針もそれに合わせて

細くする

縫いのピッチも気持ち細かく

それで 零度の水の温度感が表現できたかは分かりませんが

イメージに向かって ものが収斂していく手応えは感じました

零度の水というと一見 冷たそうですが 零度は純度と置き換えてもいいかもしれません

零度(純度)は体にとっては冷たいですが 心にとっては 心地よいものなのでしょうね きっと

お手にとっていただけると嬉しいです

            ANDADURA 山本祐介

2021.06.26

テディベア

私がモノづくりを始める一番初めのきっかけとなったテディベア作りに纏わる話。

小学生の時、母に教えてもらいながら初めて手縫いで作ったテディベア。

夏休みの工作だった。

ボディはそばかすが少し入ったようなオフホワイトと
淡いブルーのギンガムチェックのコットン(野暮ったいカントリー調の生地だったな…)、
手のひらと足の裏は黒に近い濃紺の土台に白いピンドットが散りばめられた綺麗なブロード生地を選んだ。

母はミシンを使っていたので一体仕上げるのもあっという間だったが、
私は本返し縫いで一針一針ちまちまと縫っていたため、とても時間がかかったように記憶している。

どのプロセスも私にとっては初めての事ばかりで簡単な作業ではなかった。
その中でもとりわけ難しかったのが顔の表情を作ること。
ほんの僅か数ミリ顔のパーツ位置を変えるだけで様々な表情に変化する為なかなか一筋縄でいかない。

やっとの思いで仕上がったテディベアは私の思いとは裏腹に、少し眉を顰めて困った表情をしていた。

足の裏にはs.sと私のイニシャルを刺繍した。

それ以降、沢山のテディベアを作っては友達や家族にプレゼントしたり、
自分の部屋に飾ってディスプレイを楽しんだりと小学校を卒業するまでは
テディベア製作に埋もれた日々を過ごした。

色の組み合わせを考えるのが毎回とても新鮮で楽しかった事、
一枚の布が自分の手によって立体的なものへと変化してゆく過程、
選ぶ素材や糸の色、太さによっても全く違った表情のものに仕上がるという事、
自分が作ったもので人を喜ばす事ができるという幸福感。

30年近く経った今でもその時の感覚や作業風景、道具や生地に触れた時の感触は鮮明に覚えている。
きっと無意識のうちに自分の身体に染み込んでいったのだと思う。

きっとこの感覚はこの先も消えることなく、
静かに存在し続け、知らぬ間に糧となり今後も私のモノづくりを陰ながら支えてくれることだろう。